川柳さくらぎ作品
 

「さくらぎ」創作欄から、一句独立して鑑賞できる作品を選びました。それぞれの作家の個性が垣間見られます。

 

船木 千夢

場違いも座布団いちまい分の縁
寄り添って転がっている古電池
奥まった席で積み木を整える
耳打ちを餌にしているコンセント
切なさもさっと湯掻いて明日に発つ

北埜 郷柳

こぼれやすい二代目のたなごころ
バイオガス愛車と酒を分かち合う
マンガより漫画地でゆく総理の座
ルビの無い明日へ総理の虚ろな目
プーチンが来て返さない島を選る

高斎 ゆみこ

代償の花粉が重い朝の鉢
老いの背に老いを背負わせる処方箋
事務連絡終わる残された石ふたつ
殺意かな布団を叩く破裂音
エコですか谺になったサミット後

尾川 柳蔵

能面が起き出してくる欝の朝
破り捨て丸めた鶴を折り返す
狂っても狂っても夢 鶴を折る
狂ってもいいか 残りの鶴を折る
三猿のどこか笑って鶴を折り


朝比奈 千鶴

花蕊には触れない距離で聞くおだて
放たれた時間 老後という荒野
助手席でソフトクリーム溶けやまず
日めくりのどこかで女影を捨て
リタイアの明日から面は一張羅

 

橋本 祐子

はぐれてたアリス デイサービスにいた
春はどこから ハンドルの遊びから
今日もママチャリ 等身大の暮らし
草食の男もちょっと草いきれ
エコカーに替えて天国まで行くか

斎藤ふじお

道標自分で書いて見定める
普段着になれぬスーツが引きこもる
液状の地盤に立てる旗ひとつ
落日を影の長さに教えられ
金メダル色の夕日に小旗振る

 

小沼 一拝

花の名も定かならずに朽ちる鉢
オクターブさがった顔の昭和歌
売れ残る節分の豆雛が食べ
カラス瓜枯葉の陰のごあいさつ
おみくじの気分で血圧計を見る

 

後藤 けんじ

病気せぬうちに美食を心がけ
近道はせず人生の回り道
奪う愛 先の苦労を買っている
言わずもがな男が味噌をつけている
柳友が逝って虚ろな今日の会

荒瀬 ま喜

レントゲン骨の密度に出汁が出る
ほろ酔いの旦那はどれも鯰顔
低音に弱い旦那の左耳
足首のきれいな人の踵みる
一行の余白を埋めるひとりごと

 

本田 玉江

投げ返すボールに笑顔添えてやる
浪花節 鬼も逃げ出す福笑い
一徹な父の頑固は兄が取り
浅草で団十郎は江戸の見得
クーラーの効く部屋で聞くボケ防止

ヴォイス

生臭い神を呼び出すキーボード
とろとろと机上に零すボクの核
宝くじ 夜空に蒼い猫の爪
水面に花びらの描くエゴイズム
誰がための鏡の中の百面相

中村 よし胡

天国の近道を行く鮎の味
真夏の夜ホタルを髪が飼いならす
赤い月 尋ねてみればここはチリ
「お別れ」に眉間の皺も消した亡友

久保 昭二

主婦の知恵引き出す不況 乙なもの
「おくりびと」暗い世相に陽を贈る
シンデレラ皇后様もご高齢
赤字だけしっかり残し猿総理
横浜に16歳が呼ぶ嵐

青山  南

黒い髪なので心配させられる
口よりも達者な足に賭けてみる
ずぶ濡れになって気がつくギアチェンジ
マンネリの海に投げ込む不発弾

寺森  眸

神さまの数ほど割れている民意
銃を持つ神 辺境に残される
給料を神へ払っている平和
無酸素のヒノマルが立つダウラギリ
ネパールにネパールという新首相

 

 

 

 

   

 

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